登場人物
真田秀長(主人公)/元請会社の社長/竹中静馬(副社長)/松平正道(行政書士)/豊臣不動産
2.独立の決心
一級土木に合格するとより大きな現場の指揮を執ることが出来る。 秀長の会社にはそんなに大きな工事はないので秀長は多少不満はあったがそれでも手当は 更に上がったのでこれはこれで良しとする他はない。一級土木合格者の中には資格者を求める 上位の会社にスカウトされて会社を移る者もいるが秀長は遠い親戚筋のこの会社の居心地は 悪くないので合格以来3年になるが現職に留まっている。腰が重いもう一つの理由は一級土木 に合格した後結婚したことだ。子供も二人授かっている。腰を少し落ち着けたい気分であった。
有力な元請会社の社長から個人的に声をかけられたのはそんな時である。実は秀長の家は 彼が最初の建設屋ではない。三代前の曾祖父の代にこの町に移り住んだのだがその前の 代までは代々宮大工の家柄であった。家系図らしきものも法名綴りもあって秀長自身 子供の頃祖父からご先祖様の話を聞いたことがある。元請会社の社長は何故かご先祖様に 縁があるらしく元請の社長と下請の従業員という枠を超えて秀長のことも、秀長の子供の ことも気に掛けてくれるのだ。
自分が今の会社からいなくなれば会社の社長に迷惑がかかる。秀長は自分の会社を設立 して挑戦してみたい気持ちはあったが10年育てて貰った社長を裏切りたくはなかった。
元請の社長に正直に話すと「心配ない。若いのを代わりに出しておく。実はお前の ところの社長にも内々話は投げてある。社長はお前の判断を尊重すると言ってくれている んだ。」元請の社長の返事は明快であった。
秀長は翌日自分の会社の社長に直接話を切り出した。社長が多少でも難色を示すよう なら元請社長の申し出を断ろうと思っていた。「秀長、お前の好きなようにして良い。 実は私からも言い出そうと思っていたのだが言いそびれていた。お前は腕も良いし 覚えも早い。ご先祖様に負けない仕事が出来るかもしれない。それには先ず独立することだ。 仕事の厳しさも仲間の大切さもそれで判る。言っておくが人の一生はお前の年頃には 永遠に続くように感じられるかも知れないがそうではないぞ。人生矢の如しだ。早いほう が良い」社長は淀みなく答えた。
秀長はもう迷わなかった。あと30年頑張って町一番の「土建屋」になるのだ。 そう決心した。社長にもお礼を言って辞意を告げ給与、休暇の精算をした。